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『もったいない』って、 いったい何がーー?

『MOTTAINAI』が世界共通の言葉になったのは、言葉に込められた『こころ』があったから。そのこころとは一体なんでしょう。今も私たち日本人にそのこころは生きているのでしょうか。

世界が賞賛するRespectの精神

 MOTTAINAIーー。

 

 ノーベル平和賞を受賞したケニアの女性、ワンガリ・マータイさんによって国連で唱和され、世界共通語になった日本語です。マータイさんがこの言葉を世界に広めようと思ったのは、言葉に込められた日本人のこころに感銘を受けたからでした。

 それまで環境問題、とりわけゴミの問題についてはReuse (再利用)Reduce(削減) Recycle(再資源化)の3Rで語られてきましたが、日本には4つ目のR、「もったいない」という言葉に込められた、限りある資源へのRespect(敬意)があるとマータイさんは言うのです。

 思い出してください。あなたは家庭で、こんな言葉を教わりませんでしたか?

 ごはんを残すと目が潰れる

 お米一粒に七柱(人)の神様が宿る

 お米を作るには八十八の手間がかかる

 残り物には福がある

 日本人は昔からこうした言葉で、対象に敬意をはらって食べ物やものを大切にすることを連綿(れんめん)と伝えてきたのです。いただきますという食前の挨拶にすら、生命をいただくことへの感謝と敬意が込められています。

 しかしいまはどうでしょう。そのこころは日本人の中にまだ生きているでしょうか?

売れなかったらもったいないーー!?

 数年前から節分の日の夜になると、SNSには同じような、多くの画像が投稿されるようになりました。それは、スーパーやコンビニの棚に大量に売れ残った「恵方巻」の画像です。

 

 「もったいない」「心が痛む」といった言葉が添えられてそれらの画像が拡散されると、やがてテレビも取り上げ、廃棄される大量の恵方巻が映し出された結果さらに大きな話題となり、また販売店に課せられる過酷な販売ノルマを告発する声もあがるなどして、問題は企業の経営姿勢にまで及ぶようになりました。

 

 恵方巻は一〇年ほど前から大手流通企業がキャンペーンを始めた、新しい季節商品です。メーカーがなぜこんなに大量に恵方巻を作るかというと、せっかくこれまでキャンペーンを打ってきて売れる期間を作り上げたのに、その最中に欠品させてしまうことは、儲けるチャンス(機会)をみすみす失うもったいない損失だと考えるからです。これを機会損失(機会ロス)といいますが、これをできるだけ減らし、一本でも多く売って儲けようというのが企業の考え方です。生産拠点で大量に工業生産するような形態だと作られる量も膨大になり、納品が追いつかないまま廃棄されるケースもあるといいます。

 

 売らずに棄ててしまったら企業も損をするはずだと思うでしょう? しかしそうはならないのです。作っても無駄になるであろう分をメーカーはちゃんと計算していて、廃棄にかかるコストも商品価格に織り込んでいるのです。つまり、無駄に作って廃棄する分まで私たち生活者が負担させられているのです。その上公的な処理施設を使って廃棄する場合、そこでもさらに私たちの税金が使われることになります。

 

 企業が恵方巻で儲けようとすればするほど、私たちは食べ物を棄てるためのお金を余計に負担させられることになるのです。もしもあなたが恵方巻を買い過ぎて食べきれず棄ててしまったとしたら、あなたが棄てたのはゴミ箱に放り込んだその恵方巻だけではありません。もっと多くの恵方巻を棄てた上で、あなたの一本をそこに加えた勘定になるのです。

スーパーの棚を埋め尽くす恵方巻。売れ残ったら……。

売上より大切なものがあると訴えた企業

 そうした狂躁的ともいえる恵方巻キャンペーンに一石を投じた企業があります。兵庫県内に八店舗を展開するスーパー、ヤマダストアーです。同社は節分のセールを伝えるチラシの紙面にわざわざ大きなスペースを割いて、次のような文章を載せました。

話題になったヤマダストアーのチラシ

もうやめにしよう

売上至上主義、成長しなきゃ企業じゃない。

そうかもしれないけれど、何か最近違和感を感じます。

昨年あちこちで大量に廃棄された恵方巻がSNSで話題になりましたが、そりゃそうです。

のばせのばせ、ふやせふやせの店舗数と恵方巻の大量生産で数は膨れ上がり続けています。

食材を原価だけで考えてるからそんなことになるんやと思う。水も土も海産資源も地球が私たちに与えてくれています。

スーパーの現場で働くと、どんなに偉い学者さんじゃなくても分かります。ヤマダの鮮魚従業員も「海産資源は絶対減ってる」って言ってます。だから大事にしたいんです。

(中略)

ヤマダはこれ以上成長することよりも今を続けられることを大事にしたいです。

(後略)

 食べられるのに捨てられる食品=食品ロスはいま、世界的な問題となっています。

 日本の食品ロスの量は年間六三二万トン(平 成二八年政府発表)、そしてその半分は家庭から棄てられています。世界の一年間の食糧支援の量は三二〇万トンですから、日本一国の、しかも家庭からの食品ロスをなくすだけで、世界の食糧支援をまかなえる計算になります。

 食品ロスの問題だけではありません。海洋資源はもう取り返しのつかないほどダメージを受けていて、五年で魚は枯渇する可能性があると訴える研究者もいます。ヤマダストアーは商売の現場からそれを感じ取り、昨年より多くの売り上げを上げることよりも、地球環境とともに現状のままの幸せが続くことがより大事ではないかと考え、私たちはそういう選択をしましたと訴えているのです。

 恵方巻を大量に作る企業は自分たちの売り上げを上げる機会が減ることを『もったいない』と考え、ヤマダストアーは売り上げよりも地球環境を、海洋資源を『もったいない』と考えました。いったいどちらが本来の精神が宿る『もったいない』なのでしょう。

 

 テレビCMはゴミの山に通う少女や、飢えによって命の危険に晒されている幼子の映像を映し出して支援を呼びかけます。確かにそのような支援は大事かもしれませんが、私たちひとりひとりが普段からもっと賢い消費をこころがけることで大量廃棄にNOと言い、ヤマダストアーのような企業を増やせば、それは貧しく飢えた子どもたちの命をつなぐことになるのです。

 

 もったいないーーせっかくこんな素敵な言葉を生み出した国に生まれたのですから、ものにRespect(敬意)を払うこの精神を実践し、いつまでも伝えてゆきたいものです。

『キッズファミリー・ぐぅちょきぱぁ』131号掲

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