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 スマホで子どもを 壊さないで!

 子どもにスマホを持たせYouTubeの動画を見せるーー。 病院の待合室で、レストランで、あるいはあなたが何か用事を済ませたい時、じっとしていられない子や泣いたりぐずったりする子をおとなしくさせておくための魔法のツールだと思ってはいませんか? 実はそのスマホが、あなたの子どもを歪めているかもしれません。

 普通のことができなくなる怖さ

 電車に乗っているとき、ふと周囲を見回してぞっとすることがあります。大半のひとがスマートフォン(スマホ)に視線を落としていて、まるで周囲を気にする様子がない そんな光景をそこに見るからです。電車内で通行の邪魔になっていても、お年寄りや妊婦が乗り込んできて目の前に立っても、スマホに夢中で気がつきません。

 

 道路上でもスマホを見ながら歩いている人はよく見かけます。死亡事故まで起きているというのに、スマホをいじりながら自転車に乗る人、車を運転している人も見かけます。

 自分が他の人の迷惑になっていることに気づけなかったり、あるいは平気で危険なことをしてしまっている状態は普通ではありません。判断力や注意力といった、誰にでも備わっているはずの普通の能力が失われ、他者への気配りなど人間らしいこころと体の働きが機能しなくなっている状態と言えます。スマホをいじるためにそうなっているとしたら、それは立派な『スマホ依存症』です。

 

 スマホ依存症はいま、日本ばかりでなく世界中で問題視されています。どこへ行くにもスマホを手放せなくなってしまい、手放すとイライラしたり不安になったり、視力や指、首などに身体的な障害が起こったり、不眠症、鬱やパニック症といった症状も報告されています。スマホなどのメディアゲームがやめられない人の脳は、ゲームが立ち上がる際、薬物中毒の人の脳とそっくりな状態になるといわれています。

 親子がふれあう大切な時間が……、

 むかし、病院の待合室には必ずたくさんの絵本が置かれていて、お母さんが子どもを膝に乗せ絵本を読んであげている光景を必ず目にしたものです。

 

 ところがいまではそうした光景は消え、かわりに子どもにスマホを持たせ動画サイトを見せている、あるいは、子どもには絵本を与えても、お母さんはその横でスマホをいじっているという光景をよく目にするようになりました。

 

 今号の『おしえてせんせい』では、絵本の読み聞かせに力を入れている学校法人杉森学園・めぐみ幼稚園の杉森先生にお話をききましたが、杉森先生によれば、絵本とは読み聞かせるものであり、読み聞かせを通じて子どもは言葉を蓄え、思考力を育み、親と子は絆を深めるとのことでした。(詳しくは一八〜一九ページをご覧ください)

 

 病院の待合室で過ごすようなほんのひとときの時間であっても、すごいスピードで成長する子どもにとっては大切な時間です。子どもに安易にスマホを預けて放置したり、あるいはお母さんがスマホに没頭して子どもから目とこころを離してしまったりすることは、そうした大切な機会と時間を失い、子どもの成長や発達を妨げることになるのです。

 

 家族が食事を共にする『共食』についての研究現場からも、スマホについての弊害を危惧する声は上がっています。家族一緒に食事をとってはいても、お父さんもお母さんも子どもも、それぞれがスマホに目を落としたまま食事をとるため、家族の会話やこころの交流がまったく行われないという事態が起きているというのです。

 

 むかし、食事どきにテレビをつけっぱなしにすることによって家族のコミュニケーションが妨げられるという問題提起がさかんに起こったことがありましたが、テレビならば同じものを見ることでまだ会話が生まれました。今では家族全員がそれぞれスマホに没頭するため、それよりひどい状態になっていると研究者は指摘しています。

 スマホに子守りをさせないで

 こうした風潮に、医師会からも提言がなされました。日本小児科医会は「子どもとメディアの問題に対する提言」をまとめ、『スマホに子守りをさせないで』というポスターを作って全国の小児科医院などに配布、待合室などに貼ってもらう活動を数年前から行っています。

小児科医会の提言は、子どもが泣いたりぐずったりするのには意味があり、親が声かけや抱っこを繰り返すことで親子の絆が生まれ、子どものこころが満たされ安定することを説き、子どもにスマホを与えておとなしくさせようとしたり、親がスマホばかり見て、子どもに注意をはらったり関心を寄せたりしなくなってしまうことの弊害を訴え、その上で、スマホばかりでなくテレビやDVD、ゲームなどあらゆるメディアの利用の仕方について、具体的な行動指針として五つにまとめられています。

 ほかにも、スマホに費やす時間が子どもたちからどれだけ大切なものを奪っているか、スマホよりも、体を動かす活発な遊びがどれだけ子どもたちに大切なものをもたらすかなども、同医会は訴えています。

 

 総務省の調査によれば、ネット依存は小学校4年生頃から顕著になりだします。スマホを取り上げられたことで暴れる子や、親に暴力を振るう事例も報告されています。

 

 子どもをおとなしくさせるのに便利だからと安易にスマホに頼っていると、子どもは壊れてしまうかもしれません。子どもに手がかかるのは、手をかけなければならないだけの理由があるからです。どうか根気強く手をかけて子育てをしてください。

 

 子どもにスマホを見せないだけでなく、お母さんお父さんもスマホの電源を切り、家族のコミュニケーションのための時間を、意識して作るようにしてみてはいかがでしょうか。

『キッズファミリー・ぐぅちょきぱぁ』129号掲

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