
避難先でいじめられた福島の中学生の作文に思うこと
“いままでいろんなはなしをしてきたけどしんようしてくれなかった。
だからがっこうはだいっきらい。
なんかいもせんせいに言おうとするとむしされてた。
学校も先生も大きらい。
いままでなんかいも死のうとおもった。
でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた。“
福島原発事故で横浜に避難していた中学生がいじめを受け、同級生らに150万円もの金銭を払わされていた事件。上の文章は被害者の子が6年生のときに書いた作文の一部です。
横浜市の教育委員会は当初、金銭の授受はいじめにはあたらないという見解を表明しました。後に批判を受けて撤回しますが、教育現場はいったいどこを向いているのでしょうか。
災害に痛めつけられ、その上避難先でなおも周囲の子どもや大人から心身ともに傷つけられる、そんな子どものこころに寄り添おうとする暖かい心は、横浜市のケースではどこにも見受けられません。
いじめが社会問題として認知されたのは1980年代のことですが、一昨年、全国の学校におけるいじめの認知件数は過去最多を記録しました。30年もの長い間をかけ、いじめ問題は解決に向け一歩も前進していないのが現状なのです。
いま、日本の家庭は危機的状況にあります。
教育現場だけが特異な世界になっていると断じることはできません。
大阪のとあるマンションの自治会は、子どもの安全を守るという名目で、大人は子どもに話しかけてはいけないと決め、挨拶すらも禁じました。
子どもたちは本来、さまざまな立場の他者とのふれあいによって社会を学びます。また他者とのつながりが子どもの心の安定を育むことにもなります。
昔の大人たちなら知っていた、そうしたかつての“常識”は顧みられることなく、いびつで極端な取り決めがなされてしまう背景には、いったい何があるのでしょうか。
いま、さまざまな社会問題の報道にふれるとき、その背後に『日本の家庭は危惧すべき状況にあるのではないか』という共通の懸念が浮かび上がって見えてきます。
充分な愛情を注ぎ、子どもの心に寄り添って育みながら、社会のルールや他者との関係をしっかりと教え導いてゆく——育児に際してのそうした家庭の役割は、きちんと果たされているのでしょうか。
そろそろ私たちひとりひとりの大人が、真剣に考えるべきときがきているのではないでしょうか。
家庭を小さな理想の国に
私たちが『家庭を小さな理想の国に!』をスローガンに決めたのは、人間形成において家庭が果たす役割がどんなに大切か、お父さんお母さんにあらためて気づいて欲しいという願いからです。
家庭を小さな『国』と考えていただき、しっかりと治めることや、家族という国民を幸せにする『国づくり』に取り組んでいただきたいのです。
昔、それぞれの家庭にはユニークなルールが存在していました。
父親が食卓につくまでは、絶対に誰も料理に箸をつけてはならないというルールが存在する家庭がありました。
食事どきにはテレビを消すことがルールになっている家庭もありました。
子どもたちの門限が厳しく決められていて、破ると中に入れてくれない家もありました。
子どもの仕事の分担が厳に決められている家もありました。
個々のルールだけを見れば、今の世の中にそぐわないものやナンセンスに見えるものもあります。しかし家のルールを守るという習慣を通じて約束や秩序、道徳といったものの大切さ、またそうしたものに対する敬意や規範意識、家族を通してみる人間という存在、命の重さ、犯すべからざる神聖なものの存在といったものを家庭で学ぶことができました。
それらはすべて、他のどこでも教えてはくれないものばかりです。
命の大切さ。社会の一員として正しい行動を取ること。勇気を出して正義を行うこと——。
そんなひととして基本的な、大切なことを子どもたちに教えるのに最も重要な役割を果たすのが家庭なのです。
私たちはお父さん、お母さんに『王様』や『大統領』や『総理大臣』になっていただきたいのです。そうして独自の『法律』をつくって大切なことを子どもたちに教え、ユニークな『行事』で絆を深めながら、楽しく幸せな『国』をつくっていただきたいのです。
そうしていつか日本中が、独自の規範に従い良心と勇気とを十分に育んだ幸せな『国』で満ち溢れたならば、そのときほとんどの社会問題はきっと解決しているはず。
家庭が変われば、社会が変わるのです。
インドの貧しい人々に生涯を捧げたマザー・テレサは、ノーベル平和賞受賞の際、世界平和のために何をすべきか訊かれ、こう答えました。
——家に帰って家族を愛しなさい——。
社会をつくっているのはひとつひとつの家庭です。良い社会の実現とは、社会が良い家庭ばかりで満ち溢れることなのです。
どうかこのスローガンにご理解とご賛同をいただき、理想の国をつくる運動に、私たちとともに参加していただけますことを、こころよりお願い申し上げます。
『キッズ・ぐぅちょきぱぁ』126号掲載